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「何か新しいの来たな。あーあれか?噂の幕府一の船。よし,お前ら船三隻ほどちょっと手を加える。」
高杉達はすぐに小船三隻を石炭運搬船に偽装した。そこへ大砲を積み込んで何食わぬ顔で富士山丸に近付いた。
「何か近付いて来るぞ。」
「ありゃ石炭補給に来た船やろ。」
だから問題ないと思った矢先,
「撃て。」
高杉は富士山丸の機関部目掛けて大砲を撃ち込んだ。幕府軍が誇る最強船もあえなく撃沈。
ここから勢い付いた長州軍は本格的に小倉城へ攻撃を仕掛けることにした。だが小倉城に配備された肥後軍はアームストロング砲や高杉達と同じミニエー銃で応戦。激戦を強いられた。
「酷い砲音……。」 https://www.easycorp.com.hk/en/notary
海からは煙が上がっている。あの最前線に高杉達がいるのかと思うと三津は平常心ではいられない。
戦が起こっているのを目の当たりにするけども,三津は屯所に留まる事を決めた。負傷者の手当を手伝ったり,握り飯を作ったりして戦うみんなを支えた。
“松子ちゃん勝山城へいらっしゃいよ”
千賀にもそう促されたが断った。果てる時はみんなと共に。池田屋事件の時に言った自身の言葉を胸に留めていた。
『吉田さん,兄上,武人さん。お願いです。みんなに力をお貸しください。』
三津は一日に何度も心の中でそう唱えた。これがみんなの目指した未来に繋がるのなら,力をと空に願った。
「三津。」
愛しい声にすぐさま声の方を向いた。
「九一さんっ!持ち場離れて大丈夫なの?」
少しやつれた気がするが,いつもの飄々とした雰囲気を纏ってそこに立っていた。
「それよりも三津がこんな戦場近くにおるのがおかしい。」
入江は本当にみんなと共に居る気なんだなと苦笑した。
「おかしくないです。先生方のお手伝いをしてるんですから近くに居て当然です。」
三津は布陣の近くで町医者達の手伝いをしていた。
「三津,あっちが苦戦を強いられとる。これから私もあっちに渡る。」
その言葉に三津は呼吸を止めた。覚悟はしていたがとうとう最前に出るのだ。
「そう……ですか……。ご武運を……。」
目を潤ませた三津に入江は参ったなと頬を掻いた。それからあの時のように三津の目線に合わせて腰を落とした。
「頼む。笑顔で行ってらっしゃいと言って欲しい。二度とヘマはしない。今度も生きて帰る。」
三津は口をへの字にしながら必死に涙を堪えて頷いた。
「いっ!行ってらっしゃい!」
必死に笑うその顔がくしゃくしゃで入江は思わず笑ってしまった。
「ありがとう。これで百人力や。あとね鉢金に,行ってらっしゃいの口付けを一つ。」
入江は目を閉じて三津が唇を寄せやすいように頭を突き出した。三津は入江の肩に手を置いて少し背伸びをして鉢金に口付けをした。
「見せつけてくれるなぁ。参謀。」
入江の事を参謀と呼ぶのはあの人しかいない。二人はゆっくり声の主へ顔を向けた。
そこにはにやにやする元周と伊藤。二人とも防具を纏っていた。
「お前の代わりに山縣と指揮を取る。こっちは心配無用,存分に高杉の所で戦うがいい。」
ふんぞり返るその姿に二人は苦笑いだった。
「じゃあ……話したい事とは……。」
「二人になりたい口実だよ。私も三津との子を残したい。」
それを聞いた途端に三津の胸がざわついた。
「あの……ごめんなさい……それはまだ……。」 https://www.easycorp.com.hk/en/notary
「だろうね。ごめんね,困らすつもりはないんだ。私もね夫婦の形にこだわるのをやめようと思う。
三津を妻と言う位置に縛る方が良くないんだと思った。
三津には最期まで傍に居て欲しいし添い遂げたいと思ってる。でもそれは妻としてではなくてもいい。君が傍に居てくれるならなんだっていい。」
これが三津を想っての桂の考えだったのに三津にはそれが伝わらなかった。三津は複雑な顔で桂を見つめた。
『やっぱり妻にする程の女やないって考え直しはったんやろなぁ……。傍に居てくれるならなんだっていい?それは都合のいい女であってくれって事なんかな……。』
それが桂の出した結論なら仕方ない。自分だって関係修復だと言いながらどちらかと言うと入江の方に甘えっぱなしだ。それならいっそ入江の妻になって主人の上司に仕える立場になった方がいいんじゃないか。
「三津?私はまた君を傷付ける事を言っただろうか……。」
三津の表情が悲痛な何かを訴えてるように見えて桂は思ってる事を教えてくれと頼んだ。
「いえ,何でもありません。小五郎さんは私を妻にしなくて正解です。幾松さんを奥さんにして尻に敷かれてる方が何倍もいいですよ!じゃあ朝餉の支度にっ。」
そこから逃げようと立ち上がった三津の手を咄嗟に桂は掴んだ。
「何でそんな事を言うんだ?私が妻にしたいのは君だけだと言ったろ?どうして幾松が出てくる?君が私の妻になる気がないと言うから……それでも私は君と生きていたいからその道を考えたのに何故だ。」全く想いが伝わらない苛立ちから力任せに三津を引き戻してしまい,そのせいで貧弱な三津は引かれた勢いで尻もちをついた。
「いったぁ……。」
「っ!すまん!三津!すまん!どこが痛い?足か?手か?」
三津は自分の前に回り込んで狼狽える桂を呆然と見ていた。
自分の知っている桂はこんな男だっただろうか。
いつも落ち着きを払って堂々と振る舞って余裕を感じさせる優雅さがあって。
今の桂にそれは一切感じられない。そうしてしまったのが自分なのだと気付いた三津は放心状態になった。
「私が小五郎さんをどんどん駄目にしてます……。」
「違う元々私は駄目な男だ。今まで必死に取り繕ってただけだ……。そんな駄目な男が唯一休める場所なんだ……。
みんな私の上辺だけ見てる。私はみんなが思うような男じゃない。それを曝け出して甘えられるのは三津しか居ない。」
だから先に逝かれても困ると弱々しく呟いた。
『アカン……弱ってる姿が可愛い……。』
きっと世の女はこんな色男が弱音を吐いてめそめそしていたらみっともないと幻滅するんだろうが,何でか三津はそんな男の姿に心を持っていかれるんだ。
「駄目な男過ぎて嫌いになった?」
「いえ?駄目な男は嫌いじゃないです。」
寧ろ男の弱った姿にきゅんとしてしまうのを恐ろしいほど自覚した。
吉田の時といい入江にしろ桂にしろ,自分が手を差し伸べてあげなければと思う姿に心を鷲掴みにされるのだと改めて気付いた。
『そうや……私が駄目にしてるんやなくて私が駄目な男に引き寄せられてると言うか駄目な男が寄ってくると言うか……。』
そう言う素質を持った男に惹かれるのかもしれない。そう思うと新平は真逆の人間だったなと口角を少しだけ上げた。
三津は膝で立ち上がり桂の頭をそっと胸にもたれさせた。
新平の事でうじうじしていたあの頃とは立場が逆転したなと心の中で笑った。桂の背中をとんとんと優しく叩いているとフサの小さな足音が聞こえてきた。
「姉上,桂様の朝餉はこちらにお持ちしますか?」
やはり戸は開けず外から声をかけてくる。文の教育がなっているようだ。
「そうしてくれ。」
三津の代わりに桂が返事をした。フサは分かりましたと返事をするとまた小さな足音を立てて帰って行った。
足音を立てるのも自分が近付いている事,立ち去った事を示す為だ。本当に良く出来た子だと桂は感心した。
お陰で三津にみっともなく甘えたままでいられる。
だがそこで失敗に気付いた。今朝の味噌汁は三津が作った物じゃないんだ。
「とりあえず昼餉を食べましょ!皆さんお腹空いてるでしょ?」
ピリピリした空気は嫌だ。
お腹空いてたらカリカリしちゃうでしょ?って笑いながら三津は三人を座らせてちゃっちゃと昼餉の用意をした。
「あ~美味ぇ……。そりゃ毎日食いに帰って来るわな。」
「お口に合って良かったです。」 https://www.easycorp.com.hk/en/notary
高杉に褒められて緩みきった顔で急須からこぽこぽお茶を注いだ。
「食べたらすぐ藩邸に戻るからな。」
「乃美の親父が面倒くさい。藩邸から出さんって大刀持って追っかけて来やがった。」
桂の言葉に子供のように嫌だ嫌だと駄々をこねた。
「晋作が居ると面倒事しか起きないと乃美さんも思ってるぞ。」
『やっぱりわやな人やからかな。』
くすくす笑ってやり取りを聞いていたら高杉の切れ長の目にじっと見られてるのに気付いた。
「三津さんが一緒に来てくれるなら藩邸に戻る。駄目ならしばらくここで厄介になる。」
「は?突然来といて何言ってんの?馬鹿か
?」
伊藤が箸で目を突くぞと真剣な顔で罵った。
「やってみろや。こちとらこれで突いてやるけぇ。」
高杉は脇に置いていた大刀に手を伸ばした。その顔は至って真剣で伊藤は冷や汗を垂らしてふいっと目を逸らした。
「それで丸く収まるなら私行きましょうか?」
藩邸に行くだけでしょ?と首を傾けて桂の顔色を窺う。
「まぁ……三津が居た方が乃美さんの機嫌も幾分良いだろ。」
「所詮は親父やな。何なら膝の上に座らせてお酌させとってくれや。それなら説教出来んやろ。」
「晋作,それでお前に殺意を抱くのは桂さんだけじゃないからな。身内に敵作るの本当に止めとけよ?」
ちょっとだけ高杉から距離を取った伊藤がもっと厄介な奴が居ると忠告する。
「三津さんそんなに誑かしとるそ?魔性か。」
そんな風に見えんのにとまじまじと三津を見る。
「魔性やないですし誑かしてもないんで。
とりあえず高杉さんを藩邸に連れ戻すのが先決みたいなんで一緒に行きますね。」
後は邪魔しないようにサヤ達の手伝いをしておこうと思った。
そして帰りたくない帰りたくないと駄々をこねる高杉を三人で藩邸まで連行した。
「戻ったか高杉ぃーーー!!!」
門をくぐるや否や大刀を手にした乃美が鬼の形相で突進して来た。「げっ!クソ親父!」
高杉は身の危険を察知すると三津の背後に回り,ずいっと三津の背中を押して乃美の前に突き出した。
「乃美さんこんにちは。」
三津はいつも通りの笑顔で頭を下げて挨拶をした。
「んな!三津さん身代わりにしよって!
……すまんなぁ騒々しくて。今日は羊羹あるけぇ後で食べり。」
頭を撫でてから懐に手を突っ込み懐紙の包みを取り出して三津の手に握らせた。
鬼の形相は微塵もなく,目尻を垂れ下げ三津を愛でる。
「これもいつものヤツじゃ。」
落雁だ!と三津は喜んでまたありがとうございますと頭を下げた。
「……乃美さん随分骨抜きにされちょる。あの娘何したそ?」
高杉は眉間に皺を寄せて桂に耳打ちした。
「まぁ……後で話す。とりあえず今はお前の話を聞かにゃならんだろ。」
甘味ぐらい私が与えるのにと内心むっとしながらも涼しげな顔で平静を装う。
「三津,お茶を淹れて乃美さんの部屋に頼むよ。」
「分かりました。」
貰った落雁を大事そうに持って跳ねるように台所へ向かった。
三津の姿が見えなくなると乃美に再び角が生えて鬼と化した。
「高杉……じっくり話を聞かせてもらおうかのぉ。」
たっぷりお灸も据えてくれるわと黒い笑みを浮かべた。
サヤとアヤメにお邪魔しますねと声を掛け,四人分のお茶を淹れて廊下を歩いていると……。
「馬鹿者!お前は何でそう勝手な事を!!」
「ひっ!」
響いて来た乃美の怒鳴り声に思わずビクッと体が跳ねた。
「し……失礼します。」
そぉーっと障子を開けてちょっとだけ顔を覗かせた。
悪びれた様子のない総司は,まさに気軽に遊びに来た近所の子供にしか見えない。
『寂しいのは副長じゃなくてあんただろうが…。』
既に苛々の限界を超えている部屋の主はただ深い溜め息をついて総司の耳を掴んだ。
「俺はなぁ子供のお守りが大っ嫌いなんだよ!」https://www.easycorp.com.hk/en/notary
これでもかとその耳に向かって声を張り上げた。
「副長,ただでさえ人の話を聞かない耳です。鼓膜が破れてこれ以上言葉が聞こえなくなっては困ります。ですから…。」
手っ取り早く追い出しましょうと総司の襟を掴むと,斎藤は廊下へ放り出してピシャリと障子を閉めた。
「悪いな…。」
「いえ…。」
何事も無かったかのように土方の正面に腰を据えた。
「ですがこうも職務の妨げをするのであれば沖田をあいつの護衛に付ければ…。」
さり気なく,自分の役目が総司に移るように試みる。
「あ?それじゃあ総司を喜ばすだけだろうが。」
それだけは譲れねぇと鼻を鳴らした。
『自分が迷惑するよりも他人の幸福が許せないと言う事か…。それが沖田なら尚更だな。』
「それに総司を付けたら遊びまわった挙げ句帰っちゃ来ねぇよ。
まぁ明日もう一日だけ我慢してくれや。その後は平隊士にも順番にさせるさ。」
「はぁ。」
『我慢…か。
別にこの任務が嫌な訳ではないが…。』
この任務を嫌々遂行してるように思われてしまったようだ。
「ご苦労だったな下がっていいぞ。」
「失礼します。」
この仕事が嫌なんじゃなくて向いてないだけ。
それも伝えられぬまま斎藤は部屋を出た。
『いや…そんな情けない事を自らさらけ出す必要はあるまい。
あいつの気配を感じ取る好機じゃないか。』
密かに意気込んで迎えた翌日。
斎藤は三津から近からず遠からずの距離で監視をしていた。
「おや?また会いましたな斎藤先生!」
底抜けに明るい声が斎藤の耳にキンキンと響いた。「あまり大きい声を出さないでもらえます?
こっちは気付かれては困るんで。」
「おっと!そりゃすんません!それにしても二日続けて会うやなんて偶然ですなぁ。」
山崎はぺろっと舌を出しておどけながら斎藤の隣りを陣取った。
「偶然ではないでしょう。
俺が昨日と同じこの場所に来るのを知って来たんでしょう?
それよりも山崎さんが同じ場所を徘徊してる方が気になりますが。」
目には三津を映しながら,隣りの山崎の姿も横目で窺った。
山崎は意味あり気に口角を吊り上げた。
「この界隈に大物が現れとるんですわ。」
斎藤の眉がピクリと動いた。
それを見た山崎は益々笑みを深める。
「誰か…教えたりましょか?」
斎藤が頷くよりも先にそっと耳元に顔を寄せて囁いた。
その名を告げられ,斎藤はカッと目を見開いた。
思わず立ち上がりそうになった。
「それは…真か…。」
一度深呼吸で気持ちを落ち着かせて,より声を潜めた。
「それを確かめる為に彷徨いとるんですわ。ほなまた屯所で…。」
行き交う町人の間をすり抜けて行く山崎を見送って,再び目は無邪気な笑顔で店に立つ三津を捉えた。
何とも言えない焦燥感に口を真一文字に結んだ。
『一日だけの我慢とはこの事だ…。』
きっと明日には山崎と同じ任務につけるだろう。
それでも今すぐにここを離れられないのはもどかしい。
深い溜め息と共に俯くと目があった。
「やっぱり斎藤や。」
『何故気付かなかったんだ…。』
目の前で子供がしゃがみ込んで自分を見上げている。
「宗太郎と言ったな?」
「何でここで茶飲んどん?飲むなら三津の所にしろや。」
『人の話を聞かん奴だな…。』
宗太郎は小さな両手で斎藤の腕を掴んで長椅子から立ち上がらせた。
にやわらかい笑みが浮かんだのをみとめた。
「おれがでを絶つ……。そういう筋書きだよ」
「そんな馬鹿な」
馬鹿みたいなリアクションだが、それしかできなかった。
こいつらは、なんて馬鹿な筋書きを作ったんだ?
俊冬も俊春も、https://www.easycorp.com.hk/en/notary じつは馬鹿だったんだ。
カッコつけしいの大馬鹿野郎ってやつだ。
馬鹿馬鹿しくって、思い悩んでいた自分が愚か者に思えてくる。
俊冬が副長とおなじ髪型に、俊春がおれとおなじ髪型にしていたのは、そういうわけだったのだ。
「そうだな。馬鹿だよな。だが、あいつとおれにとっては、その馬鹿なことが生きがいなんだ。それが、使命であり、生きてきた意義なんだ」
かれがちかづいてきた。懐の内に入ったところで、立ち止まった。
「きいたか、相棒?こいつら、マジで馬鹿だよな?」
左脚許でお座りしている相棒に同意を求めた自分の声が、涙声になっていることに気がついた。
「くそっ!そんなの勝手な思い込みじゃないか。いらんお世話ってやつだ。副長だっておれだって、おまえらを犠牲にしてまで生き残りたいなんて思いやしない。有難迷惑だ」
自分でもいっていることが支離滅裂だってわかっている。
それでも、兎に角いいたい。なんでもいいから、馬鹿に馬鹿なことだっていってやりたい。わからせてやりたい。
「馬鹿でごめん。それから、有難迷惑だってこともわかっている。しょせん、おれたちのエゴだってこともね。ミスター・ソウマだって、きみとおなじことをいうに決まっている」
「だったら、どうして?」
「頼みがあるんだ」
「ハジメ君。きみと副長、それから兼定兄さんに、頼みがある」
「冗談じゃない。こっちの頼みをきく耳すらもたないっていうのに、おまえの頼みだけきいてもらおうっていうのか?ムシのいいことをいうなよ」
「あいつのことを頼みたい。おれにかわって、あいつを護ってほしい」
かれは、切実に訴えてきた。
俊春は、俊冬が自分のことを嫌っているといっていた。
が、ぜったいにそんなことはない。
「断る。なにゆえ、おまえのかわりをしなきゃならない?冗談じゃない。それは、おまえの役目だろう。おまえが責任をもって、かれを最後まで護れよ」
自分でも意地悪なことはわかっている。わかってはいるが、きいてやるつもりはない。
おれは、間違っているのだろうか?
「あいつまで死ぬ必要はない。もちろん、きみもだ。この戦いがおわったら、きみと兼定兄さんとで副長とあいつを連れ、国外に逃亡してほしい。きみ自身の死は、絶対的なものじゃない。どうとでもなるだろう?だから、どこかにいってほしい」
「そんなこと、おまえにいわれなくったってそうするつもりだ。まえにいったよな?でどこかにいこうって。副長もくわえてみんなでいこう」
「きみを暗示にかけたり、ましてや危害を加えて無理矢理従わせたくないんだ。生きる気のない者の意志を覆すのは難しい。きみ自身、それを何度も体験しているだろう?受け入れてくれ。そのほうがラクになる」
近藤局長がそうだった。説得ができなかった。
そして、だってそうだ。
京で散っていいという、かれの気力をくじくことはできなかった。
ダメだ。
おれではとても俊冬の説得ができない。
近藤局長のときと同様である。
おれでは、とてもどうにかできるものじゃない。
近藤局長のとき以上に、無力感に苛まれてしまう。
いつの間にか、かれからをそらしてうつむいてしまっていた。
「許してくれ」
おれの肩に掌が置かれた。
がある。
「謝る相手を間違っているだろう?」
「そうかもしれないな」
「俊春は、かれは……。かれのことを思うと、やりきれないよ」
「ああ、わかっている。ハジメ君、あいつはきみが思っているほど弱くない。ただ、独りぼっちにしたくないんだ。あいつは、おれがいなくてもやっていける。だが、おれは、おれは……。最近のあいつは無茶をしすぎている。その理由もわかっている。あいつに何かあれば、おれが生き残るようなことになれば、おれはダメだ。おれの方が、あいつよりずっとずっと弱いから」
肩にのっているかれの掌が震えている。
「ハジメ君、お願いだ。あいつだけは死なせたくない。あいつを死なせたくないんだ。あいつの側にいて、護ってくれ。おれの後を追わないよう、寄り添ってやってほしい」
に涙があふれたかと思うと、堰を切ったように流れ落ちはじめた。
「あいつがいつまで生きられるかわからない。いまだってギリの状態だ。この戦いがおわったら、あいつは以前のようには動けなくなるだろう。寿命だって縮まっている可能性がある」
涙同様、言葉が溢れてくるようだ。
『を削っている』
先日、俊春と話をしていたことである。
「俊春は、おまえが自分のことを嫌っているといっていたが?」
ふと、そんなことを口走っていた。
いまのかれをみれば、どうかんがえたって俊春を嫌っているようには思えない。
「いや……。嫌っているように見せかけて……、いや、ちがうな。おれが自分自身にそういいきかせてきていることだ」
「おまえ自身に?どういう意味だ?」
かれは、ほんの一瞬だけ
俊冬の
おれの問いをスルーし、かれはおれの死んだ後、あいつがきみになりすまして島流しにあい、数年すごして適当な時期にみずからの