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悪びれた様子のない総司は,まさに気軽に遊びに来た近所の子供にしか見えない。
『寂しいのは副長じゃなくてあんただろうが…。』
既に苛々の限界を超えている部屋の主はただ深い溜め息をついて総司の耳を掴んだ。
「俺はなぁ子供のお守りが大っ嫌いなんだよ!」https://www.easycorp.com.hk/en/notary
これでもかとその耳に向かって声を張り上げた。
「副長,ただでさえ人の話を聞かない耳です。鼓膜が破れてこれ以上言葉が聞こえなくなっては困ります。ですから…。」
手っ取り早く追い出しましょうと総司の襟を掴むと,斎藤は廊下へ放り出してピシャリと障子を閉めた。
「悪いな…。」
「いえ…。」
何事も無かったかのように土方の正面に腰を据えた。
「ですがこうも職務の妨げをするのであれば沖田をあいつの護衛に付ければ…。」
さり気なく,自分の役目が総司に移るように試みる。
「あ?それじゃあ総司を喜ばすだけだろうが。」
それだけは譲れねぇと鼻を鳴らした。
『自分が迷惑するよりも他人の幸福が許せないと言う事か…。それが沖田なら尚更だな。』
「それに総司を付けたら遊びまわった挙げ句帰っちゃ来ねぇよ。
まぁ明日もう一日だけ我慢してくれや。その後は平隊士にも順番にさせるさ。」
「はぁ。」
『我慢…か。
別にこの任務が嫌な訳ではないが…。』
この任務を嫌々遂行してるように思われてしまったようだ。
「ご苦労だったな下がっていいぞ。」
「失礼します。」
この仕事が嫌なんじゃなくて向いてないだけ。
それも伝えられぬまま斎藤は部屋を出た。
『いや…そんな情けない事を自らさらけ出す必要はあるまい。
あいつの気配を感じ取る好機じゃないか。』
密かに意気込んで迎えた翌日。
斎藤は三津から近からず遠からずの距離で監視をしていた。
「おや?また会いましたな斎藤先生!」
底抜けに明るい声が斎藤の耳にキンキンと響いた。「あまり大きい声を出さないでもらえます?
こっちは気付かれては困るんで。」
「おっと!そりゃすんません!それにしても二日続けて会うやなんて偶然ですなぁ。」
山崎はぺろっと舌を出しておどけながら斎藤の隣りを陣取った。
「偶然ではないでしょう。
俺が昨日と同じこの場所に来るのを知って来たんでしょう?
それよりも山崎さんが同じ場所を徘徊してる方が気になりますが。」
目には三津を映しながら,隣りの山崎の姿も横目で窺った。
山崎は意味あり気に口角を吊り上げた。
「この界隈に大物が現れとるんですわ。」
斎藤の眉がピクリと動いた。
それを見た山崎は益々笑みを深める。
「誰か…教えたりましょか?」
斎藤が頷くよりも先にそっと耳元に顔を寄せて囁いた。
その名を告げられ,斎藤はカッと目を見開いた。
思わず立ち上がりそうになった。
「それは…真か…。」
一度深呼吸で気持ちを落ち着かせて,より声を潜めた。
「それを確かめる為に彷徨いとるんですわ。ほなまた屯所で…。」
行き交う町人の間をすり抜けて行く山崎を見送って,再び目は無邪気な笑顔で店に立つ三津を捉えた。
何とも言えない焦燥感に口を真一文字に結んだ。
『一日だけの我慢とはこの事だ…。』
きっと明日には山崎と同じ任務につけるだろう。
それでも今すぐにここを離れられないのはもどかしい。
深い溜め息と共に俯くと目があった。
「やっぱり斎藤や。」
『何故気付かなかったんだ…。』
目の前で子供がしゃがみ込んで自分を見上げている。
「宗太郎と言ったな?」
「何でここで茶飲んどん?飲むなら三津の所にしろや。」
『人の話を聞かん奴だな…。』
宗太郎は小さな両手で斎藤の腕を掴んで長椅子から立ち上がらせた。