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ほら、此度信長様が美濃から御正室を迎えられたのはご存じでしょ?
そのお輿入れに合わせて、姫様のために多くのお召し物が必要になったとかで、特に急ぎの物を我々が請け負ったのです」
「じゃあ何かい、これはその時の謝礼で?」
「ええ。何せ大急ぎで何十着も縫ったんだからねぇ、これくらい貰って当然ですよ。──ね、お濃」
「えっ。…ああ、そ、そうじゃな」https://www.easycorp.com.hk/en/notary
濃姫が慌てて相槌を打つと
「へぇー、そうかい。そんな気前の良い話があるんだねえ」
店主は一応納得したのか、銭の束を着物の袖にしまった。
危機を救ってくれたお菜津に、濃姫は感謝を込めて小さく頭を垂れると、
この話の流れを利用して、姫は店主にこんなことを訊ねてみた。
「それで、あの……信長様とは、どのようなお方であろうか?」
「信長様?」
「ええ。信長様は民の目から見て、どのようなお方として映っているのです?」
「また妙なことを訊くねえ。いきなり何故そんなことを?」
「いえ、少し気になりまして…」
「あなたもこの尾張で暮らしているのだったら、そんなこと訊かなくても分かるでしょう。
信長様、あれはこの国一の大うつけですよ」
店主は何の躊躇いもなく言った。
「大うつけ──」
「左様。この通りをいつも側近の者らを連れて歩いていますがね、身形は奇抜だし、その上態度も悪い。
最近じゃあ“種子島”とかっていう火を吹く長筒がお気に入りなようで、よく鷹狩り場でパンッパンッ撃ち鳴らしてますよ」
「…左様ですか」
「ただしね、あれはあれで、一部の者たちには人気があるようですよ。
特に子供や若い男衆は、何かと信長様贔屓でねえ」
「ま、それは何故です?」
「信長様は人の地位や立場といったものにあまり拘(こだわ)らないお方だからだよ。
力のある者、才のある者ならば誰でも家臣にお取り立てになるらしい」
「力、才のある者ならば誰でも…」
新たに得た信長の情報に、濃姫の端麗な面差しに神妙さが滲んだ。
まだはっきりと断定は出来ないが、自分の夫は確実に何か思惑があって、人とは違う行動を取っているようである。
自分が追い求めている“答え”に、また一歩近付けた濃姫は
「有り難う。機会があればまた伺いまする」
嫣然とした微笑みを残して店を後にした。
何事もなかったような顔でスタスタと街道の中心を歩いて行く濃姫を、三保野とお菜津は慌てて追いかけた。
「殿の情報を得るために、わざわざあの店に入られたのですね?」
「ああいった情報を一番持っているのは、やはり民じゃと思うてな」
三保野の問いに濃姫は歩を進めつつ答えた。
「しかし、姫様のおかげで余計な出費を致しました。
奥方となられたのですから、おたから(お金)はもそっと大切に使われませ」
「そう固いことを申すな。欲しい物が買えて、おまけに情報まで得られたのです。私にしてみれば一石二鳥じゃ」
姫が能天気な笑い声を響かせると
「…あ、そう申せば。先程の店の主人が、信長様は種子島なる火を吹く長筒がお気に入りのご様子だと言っておりましたが、あれはいったい何のことでしょう?」
三保野はふと思い出したように訊ねた。
「きっと南蛮から渡来した鉄砲のことであろう。初めに伝来したのが種子島であった故、巷では鉄砲を種子島というらしい」
「まぁ姫様、よくご存じで」
「前に父上が行商の者から買い付けた物を見せてもらったことがあるのです。
それは凄まじい威力のあるもので、引き金を引いて弾を撃つと、反動で自分の身体が後ろにいってしまう程だとか」
「そんな凄い物に殿は目を付けておられるのですね」